「勉強したはずなのに、現場で全く通用しない」 「参考書なら解けるのに、実務になると手が止まってしまう」
ビジネスパーソンであれ学生であれ、新しいスキルを習得しようとする時、必ずこの「壁」にぶつかります。 英語の勉強で例えるなら、教材のきれいな発音は聞き取れるのに、ネイティブの会話はスラングや言い淀み(ノイズ)だらけで全く聞き取れない、といった状況です。
なぜ、こうしたギャップが生まれるのでしょうか?
教育現場では、学習効率を高めるために情報が整理され、「きれいな状態」で提供されます。しかし、私たちの生きる実社会は、予期せぬトラブルや理不尽な変数といった「ノイズ」で溢れかえっています。
今回は、この「きれいな教科書」と「汚れた現実」のギャップを埋めるために、ある大学と企業が仕掛けた画期的な産学連携プロジェクト を題材に、本当の意味での「実務能力」をどう育てるべきかについて徹底解説します。
(※本事例は他社様の取り組みを紹介するものであり、弊社の実績ではありません。素晴らしい取り組みのため、業界の動向としてご紹介させていただきます。)
データサイエンスの仕事の8割は「掃除」である

教科書のデータは「美しすぎる」
私の専門であるデータサイエンスや医療統計の世界ほど、この「リアリティ・ショック」が大きい分野はありません。
大学の統計学の授業や、オンライン講座で配布される練習用データセットは、非常に美しく整えられています。 欠損値(空欄)はなく、異常値(ありえない数値)も排除されており、教科書通りの分析手法を使えば、誰でも簡単に美しいグラフや有意な結果を出すことができます。
しかし、実務で扱うデータは全くの別物です。 企業の売上データや医療現場のカルテデータを開いてみると、そこはカオスです。
- 年齢の欄に「300歳」と入力されている(入力ミス)
- 性別欄に「不明」や「回答拒否」が混在している
- アンケートの自由記述欄が、解読不能な記号で埋まっている
こうした「汚れたデータ」を前にした瞬間、教科書だけで学んできた優等生はフリーズしてしまいます。
「データクリーニング」こそが本質的価値
実のところ、プロのデータサイエンティストの仕事の8割は、こうしたノイズまみれのデータを整える「前処理(データクリーニング)」に費やされます。 華やかなAIモデルの構築や、高度な統計解析が行われるのは、残りの2割程度に過ぎません。
「この異常な数値は、単なるミスなのか? それとも市場の急変を示すシグナル(大発見)なのか?」
泥にまみれながらデータと格闘し、ノイズの中から真実を見つけ出すプロセス。これこそがデータ分析の本質であり、この経験を通さない限り、本当の分析力は身につかないのです。
これは組織マネジメントでも同じことが言えます。 「部下が全員優秀で、指示通りに動く」というきれいな組織論は、現実には存在しません。 「言うことを聞かない」「突然辞める」「人間関係のトラブル」といった人間臭いノイズをどう受け止め、どう動かすか。そこにリーダーの真価が問われるのです。
【事例】東洋大学×アスマーク「1万人の生データPBL」
学生を「荒れた海」に放り込む
「泥臭い実践経験を、学生のうちに積ませたい」 そんな狙いからスタートしたのが、東洋大学経営学部(西村ゼミ)と、マーケティングリサーチ会社株式会社アスマークによる産学連携プロジェクトです。
このプロジェクトの最大の特徴は、アスマーク社が保有する「1万人規模のアンケート調査データ」を、加工せずにそのまま学生に提供し、分析させる点にあります。
提供されるデータは、20代から60代の男女を対象とした、生活実態や消費行動に関するリアルな「生(なま)データ」です。 教科書用にきれいに整形されたものではありません。
PBL(課題解決型学習)のリアル
プロジェクトは座学ではなく、PBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)形式で進められます。 スケジュールも実践的です。
- 9月:キックオフ
- 12月:中間発表
- 1月:最終発表
おそらく学生たちは、ファイルを開いた瞬間に途方に暮れるでしょう。 「項目が多すぎて、どこから手をつければいいかわからない」 「仮説を立てたのに、データと全然合わない」 「欠損値の扱いをどうすればいいんだ」
しかし、この「途方に暮れる経験」こそが、企業が求めているものです。 アスマーク社の現役社員がプロの視点でフィードバックを行い、学生たちは「学校の正解」ではなく「ビジネスの解」を導き出すプロセスを体験します。
きれいなプールで泳ぐフォームを教えるのではなく、いきなり荒れた海に放り込んで「泳ぎ方」を身体で覚えさせる。 これこそが、即戦力を育てるための最も効果的な教育プログラムと言えるでしょう。
企業が「眠っているデータ」を開放すべき理由

この取り組みは、学生だけでなく、企業側にとっても大きなメリットがあります。 多くの企業には、活用されずに眠っているデータ(休眠データ)が山のようにあります。 「いつか分析しよう」と思って蓄積しているものの、日々の業務に追われて手が回らないデータです。
採用ブランディングと「Z世代の視点」
こうしたデータを教育現場に提供することで、企業は「学生との接点」を持つことができます。 実際にデータに触れ、その企業のビジネスを深く理解した学生は、将来の有力な採用候補者になります。 「データ分析に理解のある会社だ」というブランディングにも繋がります。
また、学生ならではの「フレッシュな視点」も武器になります。 社内の人間が見ると、どうしても既存のバイアス(思い込み)でデータを解釈してしまいがちです。 しかし、しがらみのない学生(Z世代)がデータを見ると、「なぜ御社の若年層ユーザーはここで離脱しているんですか?」といった、プロが見落としていた盲点を突く発見があるかもしれません。
社内データの価値再発見
社内では「ゴミ」だと思われていたデータが、学生の研究テーマになることで「宝の山」に変わる可能性があります。 外部の目を入れることで、自社の資産価値を再定義できるのです。
これからの「実務能力」とは何か
ノイズを愛する力
AIが進化し、きれいなコードを書いたり、一般的な分析をしたりする作業は、まもなく自動化されるでしょう。 そうなった時、人間に残される仕事は何でしょうか。
それは、「AIが処理できないノイズを扱うこと」です。
- 定義が曖昧な課題を、分析可能な形に落とし込む力
- 汚れたデータを、意味のある情報に整える力
- 分析結果と現場の肌感覚のズレを埋める力
これらは、教科書を読んでいるだけでは絶対に身につきません。 泥臭い現場で、理不尽なデータと格闘した数だけ磨かれるスキルです。
東洋大学とアスマーク社の事例は、これからの教育が向かうべき一つの「解」を示しています。 「教室」と「社会」の壁を取り払い、生々しい現実を教材にする。 そうして育った人材こそが、変化の激しい時代を生き抜く本当の強さを持つことができるのです。
まとめ:御社の「汚れたデータ」こそが、最高の教材になる
「社内にデータはあるが、活用するリソースがない」 「優秀な学生を採用したいが、接点が作れない」 「自社の課題を、若い感性で分析してほしい」
そうお考えの経営者様、人事・DX担当者様へ。 株式会社データシードでは「産学連携プロジェクトのプロデュース」を行っています。
私たちは、単なる学生とのマッチング業者ではありません。 データサイエンスのプロフェッショナルとして、「どのデータを使えば教育効果が高いか」「どのようなテーマ設定にすれば学生の興味を惹けるか」を戦略的に設計し、プロジェクトの立ち上げから実行までを伴走支援いたします。
- 眠っている顧客データを教材として提供したい
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- データサイエンス教育を通じて、採用広報を強化したい
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