「お客様扱い」するから若手は辞める。地方企業の「巻き込み」採用戦略

「せっかく採用した新人が、すぐに辞めてしまう」 「インターンシップを実施しても、優秀な学生が振り向いてくれない」

人材獲得競争が激化する中、多くの企業がこうした悩みを抱えています。 会社説明会を丁寧にやり、先輩社員との座談会を設け、学生を「おもてなし」する。 しかし、皮肉なことに、丁重に「お客様扱い」すればするほど、学生や若手の心は離れていくというパラドックスが存在します。

なぜ、人は「お客様扱い」されると、その場所を去りたくなるのか? そして、地方の設備工事会社が、学生に「本社の改造」というガチの実務を任せた結果、驚異的な入社率を叩き出しているのはなぜか?

本記事では、「心理的所有感(Psychological Ownership)」というキーワードを軸に、人を本気にさせ、組織に定着させるための本質的なメカニズムについて解説します。

(※本事例は他社様の取り組みを紹介するものであり、弊社の実績ではありません。素晴らしい取り組みのため、業界の動向としてご紹介させていただきます。)


目次

なぜ、人は「招かれた家」を掃除しないのか?

「お客様」であることの心地悪さ

いきなりですが、質問です。 あなたは友人の家に遊びに行った時、勝手に家具の配置を変えたり、冷蔵庫の中身を整理したりしますか?

おそらく、しないでしょう。 なぜなら、そこは「自分の場所」ではないからです。 あなたはあくまで「招かれた客」であり、礼儀正しく振る舞い、出されたお茶を飲み、時間が来れば「お邪魔しました」と帰っていきます。

実は、企業の採用活動や若手育成の現場でも、これと全く同じことが起きています。

丁寧すぎるオンボーディングの罠

「ようこそ、弊社へ!」 企業はインターン生や新入社員を、まるでお客様のように丁重に迎えます。 整ったマニュアルを渡し、先輩の後ろをついて歩かせ、失敗しないように過保護に守る。

しかし、この「お客様扱い」が続く限り、彼らはいつまで経っても「ここは自分の居場所だ(This is my place)」という感覚を持てません。 自分がいなくても会社は回るし、自分には何も変える権利がない。 そう感じた瞬間、優秀な人材ほど「ここは自分がいるべき場所ではない」と判断し、礼儀正しく去っていくのです。

定着(リテンション)のカギは、この「お客様マインド」をいかに早く脱却させ、「当事者マインド」に切り替えさせるかにあります。


完璧なレポートが「ゴミ」になった日

私自身も、過去に相手を「お客様」にしてしまい、大失敗した経験があります。

データサイエンスにおける「所有感」の欠如

私の専門は医療統計やデータサイエンスですが、以前、あるクライアントからデータ分析の依頼を受けました。 私は張り切って完璧な分析を行い、美しいグラフと示唆に富んだレポートを作成し、「どうですか、完璧でしょう!」と納品しました。

しかし、そのレポートは結局、ほとんど活用されませんでした。 内容は正しかったはずです。では、何がダメだったのか?

答えは、クライアントを分析プロセスに参加させなかったからです。 私が勝手に計算し、最後に結果だけを渡す。 これでは、その分析結果は「吉田が作ったもの」であり、クライアントにとっては「他人が作った資料」に過ぎません。 自分が汗をかいて関わっていないものに対して、人は愛着を持てないし、それを実行しようという責任感も生まれないのです。

「心理的所有感」の正体

組織行動学において、「心理的所有感(Psychological Ownership)」という概念があります。 法的な所有権とは関係なく、心の中で「これは私のものだ(It is mine)」と感じる状態のことです。

この感覚を持たせるために必要な要素は、主に2つあります。

  1. 意思決定への参加:「どう思いますか?」と意見を求められ、それが反映されること。
  2. 変える権利(コントロール権):その対象に対して、自分の手で変更や修正を加えられること。

「ここの数字、どうしましょうか?」「このグラフ、もっとこう変えませんか?」 そうやって相手を巻き込み、手を動かしてもらうことで初めて、相手は「これは私たちのプロジェクトだ」と認識し、自分事として動き出すのです。


【事例】入社率4割!島根電工の「巻き込み」戦略

この「心理的所有感」を極限まで高めることで、採用難と言われる地方において驚異的な実績を出している企業があります。 島根県にある設備工事会社、「島根電工株式会社」です。

(※本事例は他社様の取り組みを紹介するものであり、弊社の実績ではありません。素晴らしい取り組みのため、業界の動向としてご紹介させていただきます。)

学生に「本社の改造」を丸投げする

島根電工は、島根県立大学と連携し、「長期実践型キャリア教育プログラム」を実施しています。 今年で4年目を迎えるこのプログラムですが、実績が凄まじいです。

  • 過去の参加学生:18名
  • そのうち入社した学生:3名

なんと、参加者の約2割が入社を決めているのです。 一般的なインターンシップの採用直結率と比較すると、これは驚異的な数字です。

なぜ、学生たちはこの会社を選んだのか? それは、彼らが任された仕事が「お客様扱い」の職場体験ではなく、「会社の未来を変えるガチの実務」だったからです。

ランチホールを「サードプレイス」に変えろ

今年のプロジェクトのミッションは、「本社4階にあるランチホールの空間改革」「公式SNSの運用」です。

本社4階にある、今はあまり使われていない殺風景なランチホール。 これを、社員が部署を超えて交流でき、リラックスできる「サードプレイス(第3の居場所)」にリノベーションする。 総務部や経営企画室が担当するような、会社の文化に関わる重要なプロジェクトです。

学生たちは、11月のキックオフから翌年3月のプレゼンまで、約5ヶ月間かけてこの課題に取り組みます。 「どんな家具を置けば会話が弾むか?」 「社員が求めている休憩スペースとは何か?」

学生ならではの感性で考え、社員にヒアリングし、実際にレイアウトやデザインを変更していく。 単なる提案ごっこではなく、実際に空間を変える権利が与えられているのです。

「私が作ったオフィス」に通いたくなる

ここが最大のポイントです。 自分が悩み抜き、デザインに関わったオフィスが完成したら、どう思うでしょうか?

「あのカフェスペース、私が考えたんだよ」と友人に自慢したくなるはずです。 そして何より、「自分が作った場所に、また通いたい」と思うはずです。

これこそが、最強の心理的所有感です。 島根電工は、学生を「見学者(ゲスト)」ではなく、会社を良くする「パートナー(オーナー)」として扱いました。 その結果、学生の中に「この会社は、私たちが作った会社だ」という強烈な当事者意識が芽生え、結果として入社=定着に繋がっているのです。


なぜ弊社は「解析代行」を断るのか

クライアントの自信と責任を奪わない

この「自分でやるからこそ、自信と責任が生まれる」という話は、私たち株式会社データシードの経営ポリシーそのものでもあります。

弊社では医療統計の事業を行っていますが、実は「解析代行(丸投げ)」のご依頼は、ほとんどお断りしています。 その代わり、「統計教育」や「解析支援(伴走)」をメインサービスとしています。

なぜなら、私たちが代わりに計算して「はい、結果です」と渡してしまうと、それはクライアントの研究ではなく、「データシードが計算した研究」になってしまうからです。

それでは、学会発表の壇上で、研究者自身の言葉で熱く語ることができません。 「なぜこの手法を選んだのか?」「この結果の解釈は?」と問われた時に、答えに窮してしまいます。 何より、自分の研究に対する「自信」や「責任」を持てなくなってしまいます。

だからこそ、私たちは少し大変でも、クライアントご自身に手を動かしていただくための教育やサポートに徹しています。 「あなたが計算し、あなたが発見した結果だ」という事実こそが、研究者の熱量を最大化するからです。

産学連携における「伴走者」の役割

これは、私たちが手掛ける「産学連携のプロデュース」でも全く同じです。

「企業と大学をマッチングして終わり」 「面倒な調整は全部私たちがやっておきます」 弊社は、そのようなスタンスを取りません。

企業担当者様と、学生・大学教員。 双方が本気でぶつかり合い、汗をかくからこそ、島根電工の事例のような「熱量」が生まれます。 私たちが全て代行してしまっては、その熱量が生まれる機会を奪うことになります。

あくまで主役は、企業の皆様と学生です。 私たちは、プロジェクトが円滑に進み、確実に成果が出るように、黒子として横で支える「伴走者」でありたいと考えています。


まとめ:「丸投げ」をやめて、一緒に汗をかこう

「お客様扱い」の採用活動や、「丸投げ」の業務委託。 これらは一見、効率的で親切に見えますが、実は相手から「当事者意識」を奪う行為です。

  • 学生に「変える権利」を渡し、会社の未来を一緒に作らせる。
  • クライアントをプロセスに巻き込み、一緒に正解を導き出す。

遠回りに見えるこのプロセスこそが、人を定着させ、プロジェクトを成功させる唯一の近道です。

島根電工の事例が教えてくれるのは、「人は、自分が関わったもの(所有したもの)を愛する」というシンプルな真理です。 あなたの会社でも、学生や若手に「お客様席」ではなく、「運転席」を譲ってみてはいかがでしょうか?


産学連携で、御社のファン(オーナー)を増やしませんか?

「学生と一緒に、自社の課題を解決したい」 「インターンシップを実施しているが、なかなか採用に繋がらない」 「丸投げではなく、社員も学生も成長できるプロジェクトを作りたい」

そうお考えの経営者様、人事担当者様へ。 株式会社データシードでは、「産学連携プロジェクトの伴走プロデュース」を行っています。

私たちは、単なるマッチング業者ではありません。 データサイエンスと教育のプロフェッショナルとして、御社の課題を「学生が熱中できるプロジェクト」に翻訳し、企画から実行、フィードバックまでをトータルで支援します。

  • 空間活用、商品開発、データ分析など、テーマは問いません。
  • 「一緒に汗をかく」プロセスを重視し、学生と社員のエンゲージメントを高めます。

御社のリソースと、学生の可能性を掛け合わせ、まだ見ぬ成果を一緒に作り上げましょう。

まずは、「どのような課題を持っているか」「どんな学生と出会いたいか」というご相談からでも構いません。 下記のお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

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