「若者向けのプロモーションなら、とりあえずSNS広告を回しておけばいい」 「Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)重視だから、短尺動画で訴求すべきだ」
もしあなたがマーケティングや広報、あるいは経営の現場でこのように考えているとしたら、それは大きな機会損失を生んでいるかもしれません。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれ、あらゆる業務の効率化が進む現代。私たちは無意識のうちに、コミュニケーションまで「効率化」しようとしています。
人に会うよりZoom、電話よりLINE、そしてチラシ配りよりWeb広告。 その方がコストもかからず、データも取れて、スマートに見えるからです。
しかし、私(株式会社データシード代表の吉田)は、自身の経験と最新の事例を踏まえてこう提言します。 「効率を求めてデジタルに逃げるな。本当に人を動かすのは、いつだって泥臭いリアルだ」
本記事では、データサイエンスの専門家でありながら「脱・デジタル偏重」を掲げる筆者が、自身の失敗談と、キユーピー株式会社と青山学院大学による衝撃的な産学連携プロジェクト を紐解きながら、デジタル全盛時代における「逆張りのアナログ戦略」について深掘り解説します。
私たちは「効率化」という病にかかっている

「届かない」デジタルのメッセージ
仕事や人間関係において、こんなモヤモヤを感じたことはないでしょうか。
- 心を込めてメールやチャットを送ったのに、反応が薄い。
- SNSで毎日発信しているのに、誰にも届いていない気がする。
- Web広告のインプレッション数は多いのに、実際の購買に繋がらない。
これらは全て、私たちがコミュニケーションの「効率」を優先しすぎた結果生じている現象です。 デジタルツールは確かに便利です。時間や場所の制約を超えて、多くの人に情報を届けることができます。しかし、「届けること」と「伝わること」は全く別次元の話です。
画面上の情報は、指一本でスクロールされ、0.1秒で消費されます。受け手にとって、デジタル上の情報は「無視するコスト」が限りなくゼロに近いのです。 一方で、私たちは「送信ボタン」を押しただけで、相手に伝わったと錯覚してしまいます。ここに、現代ビジネスの大きな落とし穴があります。
デジタルに「逃げて」いないか?
特に、新しい顧客層や若者(Z世代)を相手にする時、私たちは安易にデジタルを選択しがちです。 「彼らはデジタルネイティブだから」「スマホ世代だから」というもっともらしい理由をつけていますが、本音の部分ではどうでしょうか。
- わざわざ現地に行くのが面倒くさい。
- 対面で断られるのが怖い(精神的コストの回避)。
- 低予算で手軽に実績を作りたい。
そう、私たちは無意識に、泥臭いリアルの接触から「逃げる」ためにデジタルを使っている側面があるのです。 しかし、みんながデジタルに殺到している今だからこそ、逆に「超アナログ」で「非効率」なアプローチこそが、相手の記憶に残る最強の差別化になる──。
そのことに気づき始めた企業が、成果を出し始めています。
データサイエンティストの懺悔。「属性」で人を見ていた失敗
「Z世代」というラベル貼りの危険性
私は普段、データサイエンスの領域で仕事をしています。データを分析し、傾向を掴み、ビジネスに活かす。それが私の専門分野です。 しかし、データを扱っているからこそ陥りやすい罠があります。 それは、人間を「属性(ラベル)」や「平均値」で判断してしまうことです。
例えば、「Z世代」というマーケティング用語。 このラベルを通して若者を見た瞬間、私たち大人の脳内では勝手なプロファイリングが始まります。
- スマホがないと生きていけない。
- 映画を倍速で見るほど「タイパ」を重視する。
- 情報はGoogleではなく、TikTokやInstagramで検索する。
- 飲み会などのウェットな人間関係を嫌う。
これらは確かに、統計的な傾向としてはある程度正しいのかもしれません。 しかし、目の前にいる「Aさん」という個人がそうであるとは限りません。
自身の失敗から学んだ「現場」の重要性
私自身もかつては、この「ラベリング」で失敗しました。 「デジタル世代にはデジタルでアプローチするのが正解だ」と思い込み、ブログやYouTube、Web広告などのオンライン施策にリソースを全振りしていたのです。効率的に見込み客を集め、自動化されたメールでナーチャリング(顧客育成)をする。それがスマートな経営だと思っていました。
しかし、ある時、オフラインの学会でブースを出展し、直接お客様と顔を合わせて話す機会がありました。 そこで生まれた熱量、信頼関係の構築スピード、そして成約率の高さは、デジタルとは比べ物にならないものでした。
「画面の向こうにいるのは、データではなく、生身の人間だ」 当たり前のことですが、私は効率化の名の下に、その事実を見落としていたのです。
「同じZ世代でも、一人ひとり違う」。 この原点に立ち返り、彼らのリアルな行動を観察することの重要性を、身をもって痛感しました。
【事例分析】キユーピー×青山学院大学が証明した「アナログ」の勝利
私のこの「デジタル偏重への警鐘」を裏付ける、非常に興味深い産学連携の事例がつい先日発表されました。 キユーピー株式会社と青山学院大学による共同プロジェクトです 。
プロジェクトの背景
このプロジェクトの目的は、キユーピーが展開するプラントベースフード(植物由来食品)ブランド「GREEN KEWPIE」の認知拡大と喫食機会の創出です 。 ターゲットは、まさにZ世代ど真ん中である青山学院大学の学生たち 。 学生主体で企画・運営を行い、学食でのメニュー提供イベント(2024年10月開催)を実施しました 。
デジタルネイティブ自身が陥った「思い込み」
プロジェクト開始当初、企画を担当した学生メンバーたちはこう考えました。 「自分たちはデジタルネイティブ世代だ。だから、InstagramなどのSNSを使ったデジタルプロモーションが一番効果的だろう」
これは非常に自然な発想です。当事者である彼ら自身がそう信じていたのですから、企業の大人がそう思うのも無理はありません。 しかし、実際に蓋を開けてみて、アンケートや現場の反応を分析した結果、衝撃の事実が判明しました。
衝撃の結果:スマホより「ポスター」が効いた
イベント終了後の振り返りで、学生たちが出した結論は「デジタルよりリアル(オフライン)が効果的だった」というものでした 。
「デジタルでは情報は流れていってしまう」 「ポスターなどのオフラインのほうが目に留まる」 「(オフラインの施策が)購買につながったのではないか」
実際に、学内に掲出したポスターやチラシを見て来店した学生が非常に多かったのです。 スマホの中には無限の情報が溢れており、一つの投稿に関心を留める時間はごくわずかです。
しかし、キャンパスという「生活動線」にあるポスターは、物理的に視界に入り込み、強制力を持って情報を伝達します。 デジタルネイティブだからこそ、逆に「物理的な情報の強さ」に反応したという結果は、マーケティングにおいて非常に重要な示唆を含んでいます。
「意識高い系」というペルソナの崩壊
さらに、このプロジェクトではもう一つの「思い込み」が覆されました。それはターゲットとなる学生のペルソナ(人物像)設定です。 当初、学生チームは「プラントベースフード(植物由来)=健康意識が高い=サラダのような軽いものを好む」という仮説を立てていました 。
しかし、実際に学食を利用する学生のニーズは違いました。 彼らが求めていたのは、「授業の合間にサクッと食べられて、かつ午後もお腹が空かないような満足感のあるガッツリ系メニュー」だったのです 。
このズレに気づけたのも、実際に試食会を行い、目の前の学生の反応を見たからです。 もし、会議室の中だけで「Z世代のペルソナ」を議論していたら、お洒落で量の少ないサラダを提供し、売れ残っていたかもしれません。 現場での泥臭い修正の結果、最終的に10日間で約3,000食を完売させるという大成功を収めました 。
これからのマーケティングは「不便」と「熱量」が鍵になる

効率の悪いことは「最強の差別化」
キユーピーと青学の事例は、私たちに勇気を与えてくれます。 「最新のアルゴリズムをハックしなければならない」「バズる動画を作らなければならない」と焦る必要はないのです。
むしろ、みんながデジタルに殺到している今、あえて「効率の悪いアナログ」を選ぶことが、他社との圧倒的な差別化になります。
- メール一本で済ませられる用件を、あえて手書きの手紙で送る。
- Zoomで済む打ち合わせを、あえて新幹線に乗って会いに行く。
- SNS広告に使う予算で、地域のイベントにブースを出す。
手間がかかること、面倒なこと、身体性を伴うこと。 これらは相手に対して「あなたのために、これだけの時間を割いた」という無言のメッセージ(熱量)として伝わります。 AIが文章を生成し、ボットが返信をする時代において、この「人間臭い熱量」の価値は高騰し続けています。
「産学連携」というリアルな接点
今回の事例が成功したもう一つの要因は、「産学連携」というスキームそのものにあります。 企業単独で大学構内にポスターを貼ることは難しいですが、大学との公式な連携プロジェクトであれば、キャンパスという「聖域」に入り込み、学生の生活動線の中でプロモーションを行うことが可能です。
また、学生自身が企画に関わることで、「企業が若者に売りつける」という構図ではなく、「自分たちの代表が考えたメニュー」という共感のストーリーが生まれます。 これもまた、Web広告のターゲティング機能では作り出せない、リアルなコミュニティの力です。
まとめ:あなたのビジネスに「若者のリアル」を取り入れる方法
「若者はデジタルだ」という色眼鏡を外し、現場での泥臭いリアルな接触を選んだキユーピーと青山学院大学。 その成功の裏には、「効率化の罠」からの脱却と、「現場観察」への回帰がありました。
もし皆さんが今、「若者向けの施策が当たらない」「デジタルの数字はいいのに売上が伸びない」と悩んでいるなら、一度スマホやパソコンを置いてみませんか? そして、会議室を出て、実際の現場に足を運んでみてください。そこには、Google Analyticsには表示されない「リアルなヒント」が落ちているはずです。
「産学連携」で、御社のビジネスに新しい視点を
しかし、いきなり「現場の若者の声を聞け」と言われても、どう接点を持てばいいかわからない企業担当者様も多いでしょう。 そこで有効な手段が、「産学連携」です。
今回の事例のように、大学のゼミや研究室と連携し、学生と一緒に商品開発やプロモーションを行うことで、以下のメリットが得られます。
- リアルなインサイトの発掘:Z世代の生の声、行動パターンを肌感覚で理解できる。
- 強力なタッチポイント:キャンパス内など、通常ではアプローチできない場所でPRできる。
- 熱量の伝播:学生がアンバサダーとなり、熱量の高い口コミが広がる。
株式会社データシードでは、貴社の課題や業界に合わせて、最適な大学・研究室とのマッチングからプロジェクトの伴走支援までをワンストップで提供しています。 「若者の感性を取り入れたい」「新しい視点で商品開発をしたい」とお考えの担当者様、まずは一度ご相談ください。 効率化されたデジタル施策では届かない、お客様の「心」に届くプロジェクトを、私たちと一緒に作りませんか?

