「自分は組織の中で浮いているのではないか?」 「周りと話が合わない。自分のやりたいことが理解されない」
もしあなたが、日々の仕事の中でそんな「孤独」や「違和感」を感じているとしたら、それは決して悪いことではありません。むしろ、あなたこそがその組織が生き残るための「希望」かもしれないのです。
多くの日本企業、特に歴史ある大企業では「前例踏襲」や「標準化」が重んじられます。しかし、私の専門であるデータサイエンスや生物学の視点で見ると、「みんなと同じ(平均値)」であることは、環境が激変した瞬間に「全滅」するリスクをはらんでいます。
今回は、たった3人から始まり巨大企業・富士通を変革した「デジタルセールス部門」の実例 を紐解きながら、これからの時代に求められる「有益な突然変異(ミューテーション)」としての生き方について、統計学と生物学のアナロジーを用いて深掘り解説します。
なぜ「平均値」を目指す組織は滅びるのか?

統計学における「外れ値」の扱い
私は普段、医療統計やデータサイエンスの世界に身を置いています。統計学においてデータを扱う際、「外れ値(アウトライヤー)」という存在を非常に気にします。 これは、全体の傾向から大きく外れた極端なデータのことです。
通常、集団の平均的な傾向(標準治療の効果など)を知りたい場合、この外れ値は「ノイズ」や「エラー」として扱われ、分析から除外されることが一般的です。 「この患者さんは特殊な例だから、一般的な分析には含めないでおこう」といった具合です。
組織における「標準化」の功罪
これは企業組織でも全く同じことが起きています。 組織が大きくなればなるほど、オペレーションを効率化するためにマニュアルを作り、「標準化」を進めます。社員全員の能力や行動を「平均値」に近づけ、予測可能な状態にしようとする力学が働くのです。
平時(環境が安定している時)においては、これは非常に合理的で強い戦略です。全員が同じように動き、ミスなく業務を遂行できるからです。
しかし、そこから外れる人間、つまり「新しいことをやろうとする少数派」や「空気が読めない異端児」は、組織の秩序を乱すノイズとして扱われ、排除されがちになります。
生物学が教える「全滅」のシナリオ
しかし、ここで「生物の進化(Evolution)」のメカニズムを考えてみてください。 生物の進化は、DNAのコピーミスによる「突然変異」から始まります。
もし、親と全く同じ遺伝子を完璧にコピーし続ける種がいたとしましょう。その種は、今の環境には最適化されています。しかし、ある日突然「氷河期」が訪れるなど環境が激変したらどうなるでしょうか? 親が寒さに耐えられなければ、同じ遺伝子を持つ子供も、孫も、全員が寒さに耐えられず、その種は「全滅」します。
この時、種を救うのが「ノイズ」です。 たまたまコピーミスで生まれた「毛がふさふさな子供」という「外れ値」がいたとします。 平時の温暖な気候では、彼は「あいつ暑苦しいな」とバカにされるかもしれません。しかし、氷河期が来た瞬間、その「外れ値」だけが生き残り、新しい時代のスタンダード(始祖)になっていくのです。
つまり、組織における「変人」や「言うことを聞かない社員」は、単なる邪魔者ではありません。彼らは、環境変化に組織が対応できなくなった時のための「保険(リスクヘッジ)」なのです。
【事例】たった3人の「異端」が巨大企業・富士通を救った
「外れ値が組織を救うなんて、机上の空論だろう?」 そう思う方もいるかもしれません。しかし、日本のビジネス界でまさにこの「突然変異」が巨大組織を動かした象徴的な事例があります。
国内屈指のIT企業、富士通における「デジタルセールス部門」の立ち上げです。
巨大組織に生まれた「3人」の突然変異
NewsPicksなどの報道によると、富士通の中に新設されたデジタルセールス部門は、当初たった「3名」からのスタートでした。何万人もの社員を抱える巨大企業の中での3人ですから、統計的に見れば完全に無視できるほどの「外れ値」です。
記事のタイトルにも「富士通で生まれた『突然変異』」と表現されています 。 彼らは、既存の組織の中で「エラー」として処理されるのではなく、新たな進化の起点となりました。
「分断」をつなぐハブとしての役割
彼らが取り組んだのは、単なるテレアポや電話営業ではありません。 大企業特有の課題である「組織間の分断(サイロ)」を、データを使って繋ぐことでした。
多くの企業において、「マーケティング部門」と「営業部門(フィールドセールス)」の間には厚い壁があります。
- マーケティング:「せっかく見込み客(リード)を集めたのに、営業が放置して追客しない」
- 営業:「マーケが送ってくるリードは質が低い。やっぱり自分の足で稼いだ客しか信用できない」
このように互いに文句を言い合い、データや顧客情報が分断されているのが常です。 このたった3人のチームは、両者の間に入り込み、泥臭くデータを分析し、インサイドセールスの仕組みを構築することで、マーケティングと営業を「つなぐ」役割を担いました 。
3人から100人へ。エラーがスタンダードになるまで
最初は周囲から「あいつら何をやっているんだ?」「また新しいことか」と、組織の異物として見られていたかもしれません。 しかし、彼らがデータを武器に成果を出し始めると、その熱量は周囲に感染していきました。
3人で始まった組織は、30人、50人と増え、やがて100人規模の組織へと急拡大しました。 現在では、このデジタルセールス部門が、富士通の営業改革の心臓部(コア)として機能しています。
たった3人の「外れ値」が起こした小さな変異が、巨大な組織全体の「平均値」を動かし、新しい生存戦略を確立させたのです。 これは、組織に属する私たち一人ひとりにとって、非常に希望のある事実ではないでしょうか。
あなたは「エラー」ではなく「進化の種」だ
「前例がない」は褒め言葉
医療の現場でも、ビジネスの現場でも、あるいは研究の現場でも、新しいことを始めようとすると必ずこう言われます。 「前例がない」「何言ってるの?」。
しかし、今回の事例が示すように、「前例がないからこそ価値がある」のです。 前例通りのこと(コピー)だけを繰り返していれば、環境が変化した時に組織ごと全滅します。
もし今、あなたが組織の中で「自分はマイノリティだ」「ちょっと浮いている」と感じていたとしても、決して自分を殺して無理やり「平均値」に合わせようとしないでください。 あなたが感じている違和感や、やろうとしている新しい試みは、組織の秩序を乱すエラーではありません。組織が次の時代を生き抜くための「有益な突然変異(進化の種)」なのです。
健全な「異分子」であり続けるために
富士通の3人のように、最初は小さくても、正しい熱量を持って動けば、やがてそれが組織の新しいスタンダードになり得ます。 重要なのは、自分が「外れ値」であることを恐れず、むしろその特異性を武器にすることです。
- 周りが経験則で語るなら、自分はデータで語る。
- 周りが縦割りで動くなら、自分は横串を刺す。
- 周りが内向きなら、自分は外の世界と繋がる。
そうやって、組織の中に「健全な異分子」として存在し続けること。それが、不確実な時代における個人の、そして組織の最強の生存戦略だと言えるでしょう。
社内で「変異」を起こせないなら、外部のDNAを取り入れろ

とはいえ、歴史ある組織の中でたった一人で「突然変異」を起こし、維持するのは並大抵のことではありません。 社内の同調圧力に押しつぶされ、いつの間にか「平均値」に均されてしまうことも多いでしょう。
自社の中だけでイノベーション(変異)を起こすのが難しい場合、最も有効な手段は何でしょうか? それは、「外部の全く異なるDNA」を意図的に取り込むことです。 その最たるパートナーが「大学(アカデミア)」です。
産学連携という「意図的な突然変異」
大学の研究者や学生は、企業の論理(利益、効率、前例)とは全く異なるロジックで動いています。 彼らはまさに、企業にとっては究極の「外れ値」です。
- 企業の論理:来期の売上、効率化、失敗の回避。
- 大学の論理:真理の探究、長期的な視座、失敗を前提とした実験。
この異質な存在をプロジェクトに招き入れること(産学連携)は、組織に強制的に「健全なノイズ」を発生させることと同義です。 富士通の事例で「マーケティング」と「営業」の間をつなぐハブが必要だったように、企業と大学の間にも「翻訳家」が必要です。
ただ混ぜるだけでは拒絶反応が起きます。 異なるDNA同士を適切に接続し、ビジネスという形質に発現させるための「媒介」が不可欠なのです。
まとめ:あなたの組織に「新しい風」を吹かせるために
組織の未来を決めるのは、優秀な「平均的な社員」の数ではありません。 どれだけ多様な「外れ値」を許容し、それを活かせるかどうかにかかっています。
あなたがもし「変人」扱いされているなら、胸を張ってください。あなたは組織の希望です。 そして、もしあなたが経営者やリーダーなら、社内の「異端児」を守り、あるいは社外から積極的に「異質な知」を取り入れてください。
ビジネスとアカデミアをつなぐ「翻訳家」として
株式会社データシードでは、企業が抱える課題に対し、最適な大学・研究機関をマッチングし、プロジェクトを成功に導く「産学連携コンサルティング」を行っています。
- 「社内の人間だけではアイデアが煮詰まっている」
- 「データはあるが、新しい切り口が見つからない」
- 「組織にイノベーションの種(変異)を植え付けたい」
そうお考えの担当者様。 私たちは、ビジネスとアカデミアという異なる言語を翻訳し、御社の中に「化学反応」を起こす触媒となります。 社内のリソースだけで戦う必要はありません。外部の「知」を取り入れ、共に新しいスタンダードを創り出しましょう。
まずは、「どのような課題感を持っているか」というご相談からでも構いません。 下記のお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

